2014年4月27日日曜日

スモールビジネスは、なぜ、成功しないのか?(8) 幼年期の経営者、「職人」サラの過ち マイケル・E・ガーバーより

スモールビジネスは、
なぜ、成功しないのか?(8)
幼年期の経営者、「職人」サラの過ち
マイケル・E・ガーバーより



私の話を聞いたサラは、遠くを見つめたままうつむいて、しばらく何もしゃべらなかった。

私は、これまでに多くの経営者と接する中で、こんな光景を何度となく見てきた。

経営者にとって、倒産の予見は、医者から余命宣告されたのと同じように感じるものだ。そして、サラもそうだったのかも知れない。

しかし、私には、不思議とサラは最後まで頑張り通すだろうという直感があった。

そして、サラは、ようやく重たい口を開いた。

「私には、よくわからないわ。私が職人タイプだということは分かったわ。でも、どうして、職人だとだめなの? 以前の私は仕事が大好きだったし、雑用に追われなければ、今でも仕事は大好きなはずよ。」

サラの反応は、職人タイプの経営者によく見られる反応だった。現実は理解したが、受け入れることができないのだ。

受け入れてしまうと、今までの自分の人生を否定することになってしまうと勘違いするのである。

そして、私は、話を続けた。

「そこがポイントなんだよ。職人タイプであること自体は、何も悪くはない。でも、自分で事業を始めてしまったことが、間違えの始まりだったんだ。

職人から経営者になった人は、物事を見る時に、高い視点から全体を俯瞰してから詳細に見ていこうとはせず、まわりを見渡して見上げることで全体を理解しようとする。

つまり、戦略的視点で経営判断をするのではなく、戦術的な視点だけで経営判断をしてしまう。

だから、やるべき仕事が分かっていて、その方法も分かっていると思っているから、直ぐに思いついた方法で仕事に取りかかろうとする。

でも、実際にはじめてみると、現実は、自分がイメージしたものと違い、問題の本質が違うことに気づく。

サラ、はっきりと言うが、職人タイプの人は、他の人が経営する会社で働くべきであって、決して自分で会社を立ち上げるべきではない。

なぜなら、君も、一日中、パイを焼いたり、電話をしたりと、いろいろなことをやって忙しくしているけど、そういった職人的な仕事だけに忙殺されるだけで、一番大切な戦略的な仕事、起業家的な仕事を置き去りにしていないかな?

でも、そういう仕事こそが、君の事業の将来を切り開いてくれる。

職人として、すごい能力を発揮することはいいけど、それでも、その能力も、直ぐに限界が来る。

一日中、「職人」の人格だけで働いて、経営にとって、もっと大切な「マネージャー」や「起業家」の人格を否定するかのようにしていると、気が付いた時には、もう、手遅れになってしまう。

そして、毎日、クレームも続くようになり、雑用が増えるばかりで、そのストレスから、もう、仕事そのものが嫌になってしまう。

それが、どれだけひどい気分になるかわかるだろ?

君が職人という人格だけで、事業を経営しようとする限り、何度やっても同じ結果になってしまう。」

ここまで話を聞いたサラは、何かに気付いたのか、これまでとは別の方法について考え始めたようだった。

「でも、他人に仕事を任せても上手く行くなんて、想像できないわ。だって、これまでは、いつも私がいなければいけなかったもの。

私がお店にいなければ、お客さんはどこか別の店に行ってしまうわ。この問題を解決することなんて、できっこないと思うのよ。」

サラは、心に、ようやく陽がさしてきたようだった。

「お店の経営が、君の才能や人柄、そして、やる気に依存しているなら、きみがいなくなれば、お客さんもどこか、他の店に行ってしまう。そうだよね?」

サラは、大きくうなずいた。

「でも、それは、君は、君の能力や時間を、サービスとして切り売りしているだけなんだ。

つまり、企業が販売する製品は、商品とサービスをあわせて製品として売っているのだから、君は、君がお店にいないと売れない製品を自分から望んで作ってしまい、そのつけを自分でとっているだけなんだ。

本当なら、君がいなくても、お客さんが満足して買ってくれる製品を作って販売すべきなんだ。

そして、そんなことができる、お店の仕組みをつくるのが経営なんだよ。」

すると、サラは、こんな質問をした。

「蒸し返すつもりはないんだけど、もし、私が自分で事業を立ち上げても、職人のような仕事をしたければ、どうなるの? もし、私が職人以外の仕事をやりたくないとしたら?」

私は、本人のためにきっぱりと答えることにした。

「それなら、できるだけ早めに起業なんかやめてしまうことだね。なぜなら、会社やお店を経営する限り、「起業家」と「マネージャー」の人格を経営者が持ち合わせることは必要不可欠なんだ。

本気で成功したいと思うなら、それを受け入れるしか生き残る道はないんだ。

結局のところ、君が事業を立ち上げた目的が、誰かに雇われていた時と同じ考え方で行動して、もっとお金を稼いで自由な時間を増やしたい、ということなら、それは、単に子供じみた叶わないわがままを言っているだけで、上手く行くはずもない。」

サラは、納得していない様子だった。私は、一息してから話を続けた。

「サラ、起業して成功するということは、誰かに雇われて働くことより、はるかに難しい。

雇われている時は、3つの人格のうちのどれか1つを中心に働いていればよかったけど、起業するということは、自分が経営者になるということだ。

つまり、常に、3つの人格を会社の状況に応じたバランスで使いこなす必要があるんだ。

そのためには、この3つの人格の能力を会社務めしていた時よりも、はるかに伸ばさなければならないし、成長させる方法を学ばないといけないんだ。

もし、私の言うことが信じられないのなら、ためしに、職人の立場を離れて、自分の起業家とマネージャーの能力を引き出す場面をつくってごらん。

やればわかるけど、そうすれば、意外と会社をつくる仕事は、君が想像することと違って、職人として働くよりもはるかに面白い創造的な仕事で、会社の目的や将来を明確にして働くことは、楽しいことだと分かるはずだ。」

サラに笑顔が戻って来た。「その方法が知りたいわ」。

「サラ、まずは、どうすれば?という方法を知りたければ、なぜ、そう思うのか?という理由を考えよう。そうすれば、自ずと答えは分かるようになる。

では、そのために、スモールビジネスの2段階目の時期の青年期を見てみよう」。




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